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【LAO起業講座 人事編②】 元の勤務先を辞める ~退職金 (榊 裕葵/社労士)

   

サラリーマンの方が独立をするとき、退職金を元手に事業を始めようとされる方も多いのではないかと思う。

退職金の支給には会社ごとのルールがあるので「こんなはずではなかった」ということにならないよう、しっかりと自社の退職金規程を確認してほしい。本稿では、退職金の受給において特に気をつけたほうが良い点をいくつか示したい。

退職金規程をよく読む

まずは私自身の失敗談であるが、私が独立前に勤めた会社を辞めるとき、退職金規程の解釈を誤って、完全に皮算用をしてしまっていた。

退職金規程と確定給付年金規約の2つがあったので、退職一時金と確定給付年金からの脱退一時金の2つがもらえると思い込み「ほほう、思ったよりもらえるのだな。」とニヤけていたのだが、念のため総務部に確認したところ「確定給付年金からの脱退一時金は、退職金規程の退職一時金の内払いである」と言われ、晴天の霹靂であった。

確かに、改めて退職金規程を読み込むと、総務部の言っていることのほうが正しくて、私が解釈を誤っていたようであった。当初の見込みより退職金が約半分になってしまったので、資金計画を考え直さなければならなかったが、会社を辞める前の段階で気が付くことができてよかった。

最終的には退職金が見込みの半分でも、貯蓄を切り崩せば最悪の事態でも当面は持ちこたえられると思って独立に踏み切ったのだが、退職金規程はよく読むべきだとつくづく思ったものだ。

確定拠出年金の人はとくに注意

私の失敗談からも、退職金規程はよく読むべきものだと分かって頂けたと思うが、私がとくに気をつけてほしいと思うのは、確定拠出年金を採用している会社の方である。

確定拠出年金は、自分の個人アカウントに毎月会社から拠出される退職金の原資を積みたて(本人のマッチング拠出も可能)、自己責任で運用するタイプの退職金である。会社を転職したり、退職したりしても、自分のアカウントをそのまま持ち運びできるのが特徴である。

ただし、確定拠出年金には、持ち運びができるからこそのデメリットがあり、原則として60歳まではいちど拠出したお金を現金化することができないのである。すなわち、確定拠出年金に積み立てられたお金は、定年と同時に起業をするといったような場合を除き、独立資金として利用することはできないのだ。

退職条件によっても退職金の額は異なる

また、既に多くの方が認識していると思うが、自己都合退職の場合と会社都合退職の場合は、退職金の支給額が変わってくることに注意をしたい。会社ごとの退職金規程によるが、私の前職の会社の規程では、自己都合退職の場合は会社都合退職の場合に対し、入社10年目で70%程度、入社25年を超えてきたあたりで、ほぼほぼイコールになるような設計だったと記憶している。

このように、自己都合退職の場合には、退職金が減ることに注意しておきたいが、逆に、会社が希望退職を募集しているときや、退職勧奨を受けた場合には、独立を志している人にとってはチャンスであるという見方もできる。

希望退職や退職勧奨に応じて退職する場合は、会社都合の条件で退職金が支払われるのはもちろんのこと、退職金が割増されることが一般的だからである。少々後ろめたい部分もあるかもしれないが、独立というのは命懸けといっても過言ではないから、「もらえるものはもらっておく」と割り切るのも決して間違ってはいないと私は思う。

なお、自分の会社が中退共(中小企業退職金共済)に加入している方に覚えておいて頂きたいのは、中退共の退職金は、勤務先の会社を経由せずに中退共から直接本人の口座に振り込まれ、本人に振り込まれた退職金は、どのような理由があれ、会社がそれを取り返すことはできないということである。時々、「君は自己都合退職だから、退職金が振り込まれたら半額会社に返金しなさい」というような事業主もいるようであるが、法的にはそれに応じる必要はない。

まとめ

退職金は、独立当初の資金繰りでは非常に重要な役割を果たしてくれる。もちろん、起業当初から売上が立って、売上から経費もまかなえるのがベストであるが、やはり最初は先行投資がかかるので、どうしても入ってくるお金よりも出て行くお金が多くなってしまうのが現実である。

先行投資したお金は、もちろん事業を軌道に乗せていく中で取り返せばよいのだが、軌道に乗る前に資金が尽きてしまったら、その事業は失敗に終わってしまう。それが起業当初の一番のリスクなのだ。だからこそ、万一、想定の範囲外のことがあった場合に備え、所期の手元資金に厚みを持たせるためにも、可能であるならば退職金を活用したいものである。

社会保険労務士 榊 裕葵

あおいヒューマンリソースコンサルティング 代表

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