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【LAO起業講座 人事編③】 退職後の社会保険 (榊 裕葵/社労士)

      2014/12/16

独立を志して会社を退職するとき、多くの方が心配するのは、独立後の医療保険や年金のことではないだろうか。

会社に勤務していたときは、給与から健康保険料や厚生年金保険料が天引きされているのは気分のいいことではなかったかもしれないが、その反面、健康保険の保険証を当然のように会社から交付してもらったことや、自分に万一のことがあったときに厚生年金から手厚い給付を受けられることは、大きな安心感になっていたはずだ。

独立と社会保険

だが、会社を辞めた後は、医療保険や年金のことを自分で考えなければならない。

そこで、今回の記事では、起業家にとって、社会保険にどのような選択肢があるのかを説明していきたい。

国民健康保険に加入する

まず、最もオーソドックスな選択肢は、国民健康保険と国民年金に加入することだ。だが、多くの人にとって、この選択肢をとった場合に問題となるのは、国民健康保険の保険料の負担である。国民年金は保険料が定額(15,250円・平成26年度)であるが、国民健康保険の保険料は前年度の所得に比例して保険料が増える仕組みになっているのだ。

この点、退職した年の前年については、会社員としてそれなりの所得があった人がほとんどであろうから、上限の81万円/年に達する人も珍しくない。オーソドックスであるが、最も負担が大きくなりがちな選択肢である。

前職の健康保険の任意継続被保険者になる

次に考えられるのは、退職前の会社の健康保険を任意継続するという選択肢である。これは、退職前にその会社で健康保険に加入していた時期が2ヶ月以上あった場合、最大で2年間、元の会社の健康保険に継続加入できるという制度である。だが、この制度を利用したときは、会社に勤めていたときには会社が半額負担してくれていた保険料を自分が全額負担しなければならないことになるので、国民健康保険に加入した場合に比べて保険料が劇的に軽減するということは考えにくい。

配偶者や親の被扶養者になる

そこで、健康保険の保険料を大きく減らすにはどうすれば良いかということであるが、現在は共働きの家庭が多いことを考え、次のような方法を検討することを提案したい。

それは、配偶者の健康保険の被扶養者になるということである。健康保険の被扶養者になれるかどうかは、過去の収入は関係なく、「今後どれくらいの収入が見込めるのか」という未来予測が判断基準である。具体的な数字を挙げれば、年収130万(月収換算で10.83万円)を超える収入が当面は見込めないということであれば、極端な話、退職までは外資系金融機関で億単位のお金を稼いでいた人でも、当面無収入というならば、退職した次の日から配偶者の被扶養者になることができるのである。

したがって、起業家の方の場合、退職後はしばらくはビジネスプランを練るとか、事業が軌道に乗るまではしばらく時間がかかりそうだということであれば、配偶者の扶養に入ってしまうというのは健康保険の保険料を節約するために大いに有効な手段なのである。将来事業が軌道に乗って、年収130万円を超えそうな状態になった時点で、扶養を外れれば足りるのだ。

同じように考えて、独身の若い起業家の方の場合、親がまだ現役のサラリーマンや公務員の場合は、学生時代のように一旦親の扶養に戻るという方法をとることも可能である。

会社を設立して社長として社会保険に加入する

もうひとつ医療保険を安く上げるための手法として効果的なのは、さっさと会社を設立してしまうことである。もちろん、トータルでのメリット、デメリットを考えての判断にはなるが、少なくとも保険料の節約という観点では、会社を設立することはメリットである。

というのも、個人事業主の場合は、誰かの扶養に入らない限り原則として国民健康保険に加入しなければならいが、会社を設立して社長に就任すれば、自分の会社で健康保険に加入することができるのである。

そして、ここがポイントなのであるが、保険料については、前職での収入がいくらであったかは関係なく、自分の会社からもらう役員報酬によってのみ保険料が決まるということである。例えば、独立前はサラリーマンとして1000万円プレイヤーであった人でも、自分の会社が軌道に乗るまでは役員報酬を10万円しかとらないことにしたら、毎月の健康保険料は、本人負担分と会社負担分を合わせても5千円程度で済んでしまう。

また、合わせて厚生年金にも国民年金と同じくらいの保険料で加入することができるので、万一の障害や死亡の場合の上乗せ補償、そしてインパクトは小さいかもしれないが老齢年金の上乗せにも確実につながるのだ。

結び

このように見ていくと、一般的に言われている「会社を辞めたら国民健康保険に入らなければならないので、保険料の負担が大変だ」というのは数ある選択肢のうちの1つであって、自分の置かれている状況に応じて法律上の知識を駆使すれば、必ずそうできるとは断言できないが、負担すべき保険料を合法的に0ないし少額に抑えながら保険証を手に入れることが可能なのである。

起業したら、限られた手持ち資金を、できる限り本業の運転資金や設備投資に回せるようにするのは当然のことである。税理士に「節税」を相談する感覚で、社会保険労務士にも、是非とも「節保険料」のご相談をいただきたいものである。

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